新郎新婦が高砂席に戻り、祝辞、スピ-チ、そして余興が再開される。


そして、会場がひときわ大きく湧いたのは、明協高校野球部黄金期を築いた、敬称略で松本省吾、大宮康浩(おおみややすひろ)久保創(くぼはじめ)、佐藤博、そして松本(旧姓木本)みどり。当時白鳥先輩と共に「六人衆」と呼ばれた人達が登場した時だった。


プロ野球好きの多いオジさん世代には、松本さんを初めとした若きスター達はウケがよかったし、みどりさんの美しさはみんなの目を引いた。


「えっ、あの人、松本省吾の奥さんなの?」


「いい女は、いい男とくっつくんだね。」


「いいなぁ〜。」


なんて声が、周りから上がる。そんな中、先輩達のスピーチの口火を切ったのは、松本先輩だった。


「白鳥、悠さん。ご結婚おめでとうございます。」


その先輩の言葉の後、新郎新婦に一斉に頭を下げる5人。そんな彼らの礼に、悠は優しく微笑み、白鳥さんは照れ臭そうに笑いながら、会釈を返す。


それから彼らは口々に、高校時代の白鳥先輩が、いかに凄いピッチャーだったか。そんな先輩がケガで野球を断念せざるを得なかった無念さを乗り越え、今新聞記者として、自分達を見守り、時に、厳しい言葉で叱咤激励してくれることへの感謝を述べた。


「ところで。」


と、ここで、ややくだけた口調で、話し出したのは、大宮先輩だった。


「新郎の徹は、当時、横にいる松本省吾と、神奈川の高校野球フリークの女子高生の人気を二分する勢いでした。野球はともかく、モテることに関しては2人に引けを取らない自信があった僕ですが、実際には全く相手にもならなかったです。」


会場からは笑いが起こり、白鳥先輩は苦笑いしている。


「でも、省吾にはご覧のような素敵な彼女が、当時からピッタリ寄り添い、他の女子はいくら騒いでも付け入るスキなし。それは可哀相でした。」


(その通りでした・・・。)


実感を持って、大きく頷く私。


「一方の徹は、数ある女子からのアプローチにまるで興味を示さない。コイツはあっち系なのかと、かなり心配しました。」


と、ここでまた笑いをとったところで、みどりさんがあとに続けた。


「でも、なぜ白鳥くんが、彼女達に目もくれなかったのかは、後にわかりました。実は、本人も気付いていなかったんですが、運命の人は、もうすぐ側にいて、毎日のように白鳥くんを見守っていたんです。」


そう言うと、みどりさんは悠を見た。


「悠ちゃんは本当に一途に、白鳥くんを見て、応援していました。悠ちゃん、思いが通じてよかったね。」


「はい。」


そのみどりさんの言葉に、悠が満面の笑みで、頷いた時、会場は万雷の拍手に包まれていた。


そしていよいよ・・・


「続きましては、新婦のご友人、岩武由夏様より、御祝辞を賜りたく存じます。」


ついに来た・・・こんな盛り上がった先輩達の後に、出て行くの辛いな、でもやるっきゃない!


「はい。」


そう言って席を立った私は


「由夏、しっかり。」


と励ましてくれた加奈の言葉に頷くと、マイクの方に歩み出した。