結局、なんだかんだが終わり、俺が合宿所の自室に引き上げた時には、もう日付が変わっていた。


一息ついて、携帯を開くと、わかってはいたけど、留守電、LINE、メールの山、やま、ヤマ・・・。


だけど申し訳ないけど、それらは一顧だにしないで、俺はあいつの携帯を鳴らす。そしてワンコールもしないうちに


『もしもし。』


と誰よりも一刻も早く聞きたかった声が、耳に飛び込んで来る。


「すまん、遅くなって。」


『ううん・・・よかったね、聡志。おめでとう。』


「ありがとう。」


『記者会見で私のこと言ってくれたでしょ。』


「名前までは、言えなかったけど。」


『そんなの仕方ないよ。でも嬉しかった。』


「由夏が居てくれなかったら、応援してくれてなかったら、間違いなく俺はここまで来られなかった。」


『そんなこと、ないよ・・・。』


「そんなことあるよ。」


その俺の言葉に、照れながらも嬉しそうに微笑んでるあいつの様子が、電話越しでも十分伝わって来る。


『また、仙台だね。』


「まさかな。」


『複雑?』


「正直ちょっとな、いろいろあったし。それに・・・またお前と離れ離れになっちまうし。」


その俺の言葉に一瞬訪れる沈黙。でもすぐに由夏の明るい声が響く。


『大丈夫。もう私達はあの時の私達とは違う。あの時はもう2度と会えないと思ってたし。でも今の私達は、絶対にそんなことないもん。』


「そうだな。」


そうだ、俺達はあの頃のガキンチョじゃないんだ。


「今1人なのか?」


『うん。お父さん達は聡志んちに泊まるって。夜通しお祝いするんだって。』


「しょうがねぇな、相変わらず。水木達は?」


『泊まってけばって言ったんだけど、聡志と積もる話もあるだろうからって、ちょっと前に帰ってった。』


「そっか、気遣ってもらっちゃったな。でもお前、1人で大丈夫なのか?」


『さすがにハタチ過ぎた、もうすぐ社会人の大人ですから。1人でお留守番出来ませんなんて、言えないでしょ。』


「成長したじゃねぇか。」


『当たり前。』


と言って笑う俺達だが


『でも・・・今夜は電話切らないでね。』


「なんだよ、やっぱり心細いんじゃねぇか。」


『違うよ。ここのところ、あんまり話せなかったから。寂しかったの!』


「わかったよ。」


相変わらず怖がりな、でもそんな可愛い彼女が、たまらなく愛しかった。