その夜、正式に来季もプロ野球選手としてやっていけることが決まったことの報告がてら、由夏に電話をした。


俺の契約更改が済んだことを、由夏は既にネットニュ-スで見て、知っていた。


「まずはよかったね。それに二刀流も継続なんでしょ?」


「まぁ、そういうこった。」


「とにかく世界広しといえども、ピッチャ-とキャッチャ-の二刀流なんて、やれるのは聡志だけなんだから。とことんまでやり抜きな。」


そんな由夏の励ましの言葉に


「ああ・・・わかってるよ。」


俺はそう答えた。その後は、たわいのない話題に移り、1時間ほど話してから、またお互い明日から頑張ろうと言い合って、通話を終えた。


なかなか会うことの叶わない恋人の声を聞ける時間は、理屈抜きに楽しく、そして幸せだ。俺は今、その余韻に浸りながら、由夏の言葉を思い返していた。


(とことんまでやり抜け、か・・・。)


以前、俺が由夏に同じ言葉を言ったことがある。俺と離れ離れになってしまった寂しさから、あいつが仕事にキチンと向き合ってないと感じた時だった。


そして今、二刀流に限界を感じている俺がいる。小谷コーチからはプロでそんなものを目指すのは無謀と、当初から言われていた。だけど、それを球団やファンから望まれ、それに応えたいと思ってやって来たのは、俺自身なのは、間違いない。


しかしプロに入って2年、現実の厳しさをイヤと言うほど、思い知らされて来た。橋上が最後に、あんなことを言って来たのは、たぶん能力を超えた理想と期待に、もがいている俺を見かねたんだろう。


だが、球団は俺に二刀流の継続を指示して来た。球団の誰かお偉いさんなのか、野崎監督なのかはわからないが、まだ俺の二刀流に見込みがあると判断している人がいるんだろう。ならば、やるきゃっきゃないと奮い立つ自分もいる。


俺はそんな自分の心の中の葛藤を、一言も由夏には漏らしていない。だけど、あいつはちゃんと気付いていた。見ていてくれたんだな。