俺は今、宮崎にいる。秋季キャンプと教育リーグ参加の為だ。


(時間って言うのは、こんなに早く流れるもんだったっけな。)


そんな思いを抱きながら、俺は1年ぶりに宮崎の地に降り立った。


俺にとって、プロ野球選手としての2年目のシーズンは、オフの練習不足が祟ってケガで出遅れてしまうという、プロにあるまじき失態から始まり、その後もいろんなことが噛み合わなかった。


二軍の試合への出場数は、昨年より増えたけど、なかなか結果が伴わず、焦ると余計・・・の悪循環。結局昨年同様、何の足跡も残せなかったと言っても過言ではなかった。


怪我人続出で、低迷する一軍の都合で、やれ明日からはキャッチャー中心、いやピッチャーだと振り回されたのも堪えた。まぁ、所詮は言い訳なんだけど・・・。


そんな後悔と反省しかないシーズンが終わり、また宮崎に来た。来られただけ幸せなんだろう。


そう、プロ野球の世界では、秋は別れの季節。今年も何人もの仲間が、この地に降り立つことが出来なかった。


そんな中に橋上賢治がいた。プロ野球選手としては先輩だが、年下である橋上の戦力外通告は、正直ショックだった。


「俺はやっぱりプロ野球選手向きの性格じゃありませんでした。」


通告を受けた後、挨拶に来てくれた橋上は、そんなことを言い出した。同じピッチャーとして、羨ましくなるくらいの速球を投げながら、生来の気の弱さ、優しさが災いして、結局その素質を開花させることが出来なかった。


「結果として、俺のプロ野球でのベストピッチは、去年のお盆に、塚原さんと組んで7回3失点でSの大澤さんに投げ負けた、あの試合になっちゃいました。」


苦笑いとも自嘲ともつかない笑いを浮かべて、そう言った橋上は


「あの試合で、俺は塚原さんに、自分の足りないところを教えてもらって、目が覚めた思いでした。だけど、結局それを追い求めて、やり続ける勇気も根性も才能も足りませんでした。」


「で、どうするんだ?これから。」


「一応トライアウト(戦力外通告を受けた選手の為の、12球団合同入団テスト)は受けるつもりですけど、まぁ思い出作りと言うか、自分の中でケジメを付ける為のセレモニ-のような感じですかね。」


そう言って、また寂しそうに笑った後、表情を改めた。


「最後に、生意気なことを言うようですが・・・。」


「うん?」


「俺達に与えられた時間は、決して長くありません。だから、塚原さんも流されないで、ちゃんと自分の意思を、示した方がいいと思います。」


「橋上・・・。」


「二刀流にこだわらず、そろそろ自分の意思を貫いた方がいいと思います。あとから後悔しても、間に合いませんよ。」


そう言って、真っすぐ俺を見た橋上に、言葉を返すことは出来なかった。