「ありがとな。」


「えっ?」


「気を遣って、今日は野球の話題、ずっと避けてくれてるもんな。」


「・・・。」


「由夏にそんな気を遣わせる自分が情けねぇよ。」


「聡志の方から話してくれるなら、いくらでも聞くよ。でも、デートの時に野球のことを私の方からやいのやいの言ったら、聡志だって疲れちゃうでしょ。みどりさんに話し聞いたら、家じゃ松本先輩と野球の話なんかほとんどしないって。」


「へぇ、みどりさんなら、先輩にバシバシアドバイスとかしてそうだけど。」


「昔の癖で、ついなんか言いたくなることもあるらしいけど、絶対に自分からは言わないようにしてるって。高校時代と違って、今はプロ野球選手なんだから、奥さんに野球のことでなにか言われるのは嫌だろうし、家でも野球の話じゃ気が休まらないはずだからって。」


「なるほど、そうかもしんねぇ。」


「でしょ?私だって、プロ野球選手の奥さんになる為の勉強もちゃんとしてるんだから。」


「そっか、そりゃありがたいな。」


そんなことを言って、笑い合った私達だけど、そのあとフッと会話が途切れた。私達の視線が絡みあう。聡志・・・私がそう呼びかけようとした時だ。


「由夏!」


そう呼びかける声と同時に、私は聡志の腕の中に閉じ込められる。もちろん私も聡志に身を寄せて行く。


「頼りねぇ彼氏でゴメン。」


すると突然、ポツンとそんなことを言う聡志。


「急に何、言い出すの?」


私が驚いて、そう聞くと


「だって、そうじゃねぇか。」


と悔しそうに、辛そうに答える聡志に


「そんなこと全然ない。だから、あんまり自分を追い詰めないで。」


私は懸命にそう訴える。


「由夏・・・。」


「聡志なら大丈夫。二刀流だって、ちゃんとこなせる。聡志ウォッチャー歴ほぼ、年齢と同じ長さを誇る私が保証するよ。だから、焦らないで。」


「ありがとうな。心配かけてすまん。だけど、俺はお前が応援してくれてる限り、絶対に負けねぇから。」


「うん。」


よかった、やっぱり私の彼氏には、いつでも前を向いていて欲しいから。そして、こうやって聡志が抱きしめてくれれば、私も前を向いて行けるんだ。