それから、監督に伴われて席を外し、両親と電話で少し話をしてると、Eのスカウトが挨拶に来たと言われビックリ。


ドラ1クラスだと、指名直後にスカウトが来るというのはあるんだが、普通は当日は電話挨拶が多い、もちろん地方の選手もいるからな。


やって来た2人のスカウトは、視察にもよく来ていた顔見知りだったが、恐縮した表情。


実は、俺のところには、Eからの事前挨拶はなかった。事前挨拶なしで指名して、悪いわけではないが、異例であり、また非礼であることは間違いない。


実際、同席したウチの監督からは、不快感が示されたが


「まことに申し訳ございません。会議当日になりまして、当球団の前田浩郎(まえだひろお)監督からどうしても塚原選手を獲得して欲しいとの強い要望がございまして。不手際は平にお詫び申し上げます。」


そして前田監督から


『とにかく待っている。ピッチャーとしてもキャッチャーとしても期待している。一緒に頑張ろう。』


とのメッセージをもらった。俺としては、指名してもらって、ありがたいの一言だったし、監督からそんな言葉を贈ってもらえば、悪い気分は当然しなかった。


スカウトとの話が終わると、これは多分にマスコミ向けだが、後輩から胴上げをしてもらった。


ただ、俺より遥かに評価が高かったはずの船橋の名前は、とうとうどの球団からも挙がることはなかった。


「バ〜カ、変な気遣いは止めてくれ。これが今の俺の率直な評価。謙虚に受け止めるよ。だが、社会人野球で腕を磨いて、2年後には必ず、プロ入って、お前ら滅多打ちにしてやるから、せいぜい怯えて待ってろ。」


複雑そうな表情をしていた俺や大澤に、そう言って笑ってみせた船橋のスポーツマンらしいサッパリした言葉が嬉しかった。