「頑張ってたな。」


人の流れが一段落し、私がひと息ついていると、そう声が掛かった。振り向くと平賀さんだ。


「どうだ、対外デビューの感想は?」


「疲れましたけど、楽しいです。」


私がそう答えると


「頼もしいな。」


と平賀さんは笑う。でも自分のデザインした商品をこんなに大勢の人に見てもらえて、デザインのコンセプトを自分の口で説明して、その反応を直に感じられる。当たり前だけど、それは初めての体験で、私は興奮していた。


「まぁ俺も何人かから、言われたよ。今度の新しいデザイナ-、一所懸命にいろいろ説明してくれて、真面目さや熱心さが伝わってきて好感が持てるって。それに可愛いって。」


「えっ?」


熱心そうで好感持てるって言われるのは嬉しいけど、最後のはどう捉えたらいいのか、戸惑っていると


「今はいろいろと難しいご時世だが、可愛いと言われて、別に悪い気はしないだろ。素直に喜んどけ。」


と言うと平賀さんはまたニヤリ。


「商品の評判も結構よかったじゃないか。生産枚数多くしてもらうように、親会社にプッシュしとくよ。」


「はい、是非よろしくお願いします。」


「ちょうどお昼時だから、一段落したかな?今のうちに飯に行っとけ。午後はまた忙しくなるから。」


「わかりました。」


平賀さんの指示に頷くと、私は会場となっている本社ビルのショ-ル-ムを出て、最上階の社員食堂に向かった。


メニュ-を受け取り、空いてる席を探していると


「岩武さん。」


と声が掛かる。その声の方を振り向くと、井上さんがこちらに向かって、手を振っている。


「あっ。」


会釈を返してから、歩み寄った私は、空いていた井上さんの前の席に座った。


「お疲れ様。私もさっき顔出したんだけど、盛況だったね。」


「はい、お陰様で。」


「どう、手応えは?」


「結構、評判いいみたいです。」


「そう。まぁ新人のデザイナ-さんに、みんないきなりそんなキツいこと言わないよね。私も今まではショップの店長として参加してたからわかるけど、みんな優しいから。」


手を振ってくれてた時の姿なんか、本当に可愛らしいのに、いきなりのお言葉。このギャップに私が戸惑っていると


「マル・・・じゃなくて丸山さんは?」


「まだ接客中です。」


「そう。あの人も正念場だから、必死だね。」


「正念場?」


「うん。このままじゃ外されるよ、あの人。」


「井上さん・・・。」


「だから、岩武さんにしっかりしてもらわないと、困るんだよ。」


遠慮会釈なく、そんなことを言って来る井上さんの顔を、私は思わず見つめてしまった。