翌日、私は平賀さん、陽菜さんと一緒に朝一で、私達のオフィスのツーフロア上にある本社の商品部を訪ねた。


別会社になっているとは言え、本社の商品のデザインはウチの会社が独占して担当している。


だから、新商品のデザイン制作にあたっては、当然本社との事前の打ち合わせを経て、着手している。


そうして仕上がって来た試作品。これを持って、本社商品部との商談が始まった。本社側の出席者はチーフバイヤーと担当バイヤーの井上玲(いのうえれい)さん。


まずはチーフデザイナーである陽菜さんから、今回の商品のコンセプト、特徴を説明する。私達の商品のターゲットは20代女子、まさに自分達や井上さん自身が、ターゲットでもある。


商談と言っても、いわば身内のやり取り。まして、さっきも言ったように事前の打ち合わせもかなり綿密に行っている。


そうして上がって来たサンプル商品には、改善要望がいくつか出ることはあっても、そんな厳しいやり取りになることは少ないのが通例。


私が昨年、オブザーバーとして参加した時も和やかな雰囲気だった。


ところが、陽菜さんの説明が終わると、厳しい顔をして聞いていた井上さんが


「丸山さん。」


と呼びかけた。


「はい。」


「あなた、この商品、本当に売れると思ってます?」


「えっ?」


いきなりの言葉に驚く陽菜さんに


「前任者からの引き継ぎとは、イメージが全然違うんですけど。」


「そんなこと・・・。」


実は直前に本社では人事異動があり、私と井上さんは初対面だった。それから井上さんは、いくつかの指摘をして来た。それに対して、陽菜さんは反論というか説明をしていくのだが、井上さんは納得しない。


「今は井上さんの好みをお聞きしてるんじゃない。こちらは前任のバイヤーさんとの打ち合わせをもとに、デザインを起こして、こうしてサンプルを作っているんです。それを後から出て来てひっくり返すようなことを言われても困ります。」


「別にひっくり返すつもりはありませんけど、疑問に思っただけです。」


そう言った後、井上さんは私に視線を向けた。