夕食休憩を挟んで、会議が再開。少しすると、大澤も戻って来て、俺達はまた3人で状況を見守る。


次は船橋だろう。そう思って待ち構えているけど、2巡目で奴の名前は出て来ない。そして、3巡目の指名が始まり、そろそろなんて思って、画面に見入っていると、突然その時はやって来た。


『第3巡指名希望選手。E、塚原聡志。投手、TK大学。』


(えっ、今なんて言った?)


自分の耳が信じられなくて、動揺していると


「ツカ!」


「やったな。」


と大澤と船橋の声が聞こえると同時に、一斉に浴びせられるフラッシュの光。


(俺が3巡目指名?それもEから・・・。)


指名順位も、指名球団も全く予期しておらず、尚も呆然自失の有様の俺の様子をテレビカメラが、容赦なく捉えていた。


そんな状況にお構いなく、会議は続いて行くのだが


「では、塚原くん。会見をお願いします。」


と記者団から声が掛かり、俺は我に返った。


「ドラフト指名、おめでとうございます。今の率直なお気持ちは。」


「ありがとうございます。とにかく嬉しいです、そして本当に驚いています。絶対にドラフトに掛かるという自信もなかったですし、掛かったとしても、もっと下位だと思ってたので・・・。」


本当にそれが今の率直な思いだった。


「塚原選手は、子供の頃、仙台に住んでらしたことがあるんですよね?」


「はい、中学3年間、父親の仕事の都合で。やっぱり縁があったのかと思います。」


「塚原選手と言えば、ピッチャーとキャッチャーの両方をこなす二刀流で、知られていますが、プロ入り後は、どちらでプレーしたいと考えていますか?」


そして、当然予期された質問が来た。俺は質問者の方を向いて答える。


「僕は正直、横にいる2人ほど優秀なプレーヤーではありませんし、でもこうやって注目され、また船橋より先にドラフトに掛かることが出来たのは、やはり二刀流をやって来たからだと思います。先程のアナウンスでは、ピッチャーとして呼ばれましたから、球団には投手として期待されてるのかもしれませんが、僕としては、出来たら両方にチャレンジして行きたいです。」


思いの丈を話した。


「プロに入って対戦したいバッターは?」


「高校の1年先輩である松本省吾さんです。あの人は、僕にとってずっと憧れであり、目標です。ピッチャーとしてはもちろん、キャッチャーとしても、思いっきりぶつかってみたいです。」


これも嘘偽りない気持ち。そして最後に今の心境を聞かれ


「とにかく今は子供の頃からの夢が叶って、感無量です。ずっと支えてくれた両親、ここまで導いて下さった指導者の方々、そしていつも応援してくれてた大切な人に心から『ありがとう』って、伝えたいです。」


俺はテレビカメラに向かって、そう語りかけた。