遠い昔、それは千四百年前のこと。暗黒の魔女と謳われる魔女が不思議の国に訪れて、不思議の国に二つの呪いをかけた。一つは不思議の国を崩壊へ導く呪い。千四百年と続いている悪夢。百年経つと、再び世界の崩壊が始まるという呪い。

そして二つ目の呪いは、暗黒の魔女に抗おうとした、アリスとその仲間達にかけられた酷く残酷な呪い。 呪いをかけられたある者は狂気に狂い、そしてある者は運命を切り裂かれる。その呪いは千四百年前からずっと続いていて、今も人は呪いに縛られ生きている、そう教わった。

「アリス、呪いは解ける。あんたが崩壊を止めるのよ」

体がずっしりと重くなる。

崩壊を止めるには、白ウサギと黒ウサギ、どちらかの時計を止めれば良い。そうすれば、不思議の国の崩壊は止まる。止めるのが“アリス”の使命―― 時計を止めて崩壊が止まるなら、一見なにも問題はないように思える。

けれど実際は“アリス”に選ばれたウサギは残り、選ばれなかったウサギは消える。

白ウサギを選べば黒ウサギが消え、黒ウサギを選べば白ウサギが消える。

ウサギを選ぶ。それが“アリス”に与えられた使命。どんなに嫌でも、逃げる事は許されない。してはならない。

私が止めなければ世界が崩壊する。でも逆に、時計を止めれば世界の崩壊は防げる。

「でも、私が、どちらか片方の時計を止めたら――」

もう片方は――消えてしまう

「選ぶの。それがアリスの使命。時計を止めて、不思議の国の崩壊を防ぐのよ。全ての代のアリスがそうしてきたわ」

それはつまり、国と国の人々のために一人の者が犠牲になってきたと言うことだ。

国の為、人々の為、そう言って人を犠牲にしていいの?

女王様を見ると瞳には冷たい光が宿っていた。その瞳は私の考えている事を悟り、それを考える事は許さないと伝えている気がした。

私に、選ぶことが出来るだろうか?

白ウサギと黒ウサギ、そのどちらかを―― 女王様は私の不安を見透かすように見つめ、口を開く。

「選ぶのは、あんたの自由。好きなほうを選びなさい。どちらを選んだって、結果は同じよ」

“どちらを選んだって結果は同じ” その言葉に、ズキリと胸が痛む。

本当に、一緒?

その疑問がひたすら頭の中をぐるぐると回る。