「アリス。そろそろ時間よ」
そうこうしているうちにパーティーの開演の時間が訪れて、後ろから声がかかった。氷のような音色は厳しさを含んでいるけれど、今日は柔らかみがある。
「今日はあんたが主役なんだから、いつもみたいにドジふむんじゃないわよ」
「いつもみたいにって。失礼だなぁ。もう!そんなにドジじゃないもん!転んだりしないから大丈夫だよ!」
そう訴えても、疑わしいのか、険しい顔をして睨まれた。
「た、確かに慣れないドレスを着るたびにドレスの裾を踏んで転ぶけど……今日は大丈夫」
「それ前回も言って転んだでしょ」
女王様は呆れたように言いながら、高級感漂う深い赤のカーテンを開けて私の背中を押す。
転びそうになりながもバランスをとり、赤い絨毯が敷いてある階段の上を降りていく。指揮者が合図をだすと、曲が切り替わった。
乱れのない綺麗な旋律。ヴァイオリンが奏でる音楽が、祝福を歌っている。中央で光を帯びるシャンデリアがいつもより綺麗に見えて、思わず目が輝いた。
下を見ると会場に集まっている人達が拍手をしてくれている。皆、私の誕生日を祝ってくれているんだ。
そう思ったら、戸惑うくらい嬉しかった。胸が暖かくなる。凄く幸せ。誕生日を祝われるのはこんなにも幸せなんだって、また思う事ができて、沢山の人が祝ってくれて。
「お誕生日おめでとう、アリス!」
「お誕生日おめでとう!」
「十四歳おめでとう!」
沢山の人達が下から何度もおめでとうと叫んでくれた。恥ずかしさもあるけれど、やっぱり嬉しい気持ちでいっぱいになる。
高ぶる気持ちを抑え、思わず隣を歩く女王様を見た。