バレンタインチョコを渡すのを偶然目撃した。


しかも、本命だ。


人目につきにくい自転車置き場を選んだのだろうが、あいにく日直だったオレが通常より遅くに下校となり、遭遇してしまったというわけだ。


樋口は自転車の籠にチョコが入った段ボールを乗せた。



「春くんごめんね。皆大きな箱に入れてきてるのに、私こんなちっちゃいやつしか作れなかった...」


「奈和ちゃんの気持ちがこもってれば何だって嬉しいよ。ありがとう。もちろん1番最初に食べるから」


「美味しくできてるといいけど...」


「奈和ちゃんが作ってくれたんだから美味しいに決まってるじゃん」


「そう、かな?」



...笑ってる。


朽木奈和は笑ってる。


優しさに溢れた日だまりのような笑顔で。


こんなに優しい顔をするのは樋口の前だけだ。


オレの前でも、


相澤の前でも、


親友の森下由紀の前でも見せなかった笑顔だ。


樋口の女になっちまったんだな...。


オレは自転車の鍵を外し、サドルにまたがった。


バレないように出ていくのは厳しい。


なら、


オレは奇声を上げる。