なかなか寝付けなくて、俺は旅館の表に出た。


しばらく歩いていると、冬真に会った。


「…こんな時間に何してるんだ?」

「お前もな」

冬真は缶コーヒーを買って、月を見ながら飲んでいた。

「明日のライブ、緊張するのか?」

冬真は緊張しているとき、必ずブラックコーヒーを飲むから聞いてみた。

「…まあな」

月を見上げる瞳は切なかった。

「別のことを悩んでいるのか?」

「…ああ」

なんとなく、二葉ちゃんのことだと思う。

「…まだ諦め切れてなかった」

失恋したって言ってたしな。

その傷が癒えてないんだな。

「俺は諦めなくてもいいと思うけど」

「…え」

「だって、まだ好きなら好きでいればいいじゃん?振られたら好きでいちゃダメだって誰が決めたんだよ」

冬真はハッとした顔をした。

「…歩も恋してるのか?」

「いーや」

まあしてなくはないけど。