黒のフード付きのタンクトップに、緩めの色の薄いジーンズをはき、シンプルなバックルの付いたベルトを締めた。
茶色のチェックのシャツを適当に取り、羽織った。
昨日暑かったし、今日もそれなり暑くなるだろうと予想した。
放り出していた鞄を取り、部屋を出た。
誰の気配もない家は、私一人だけで住むには広すぎる。
家を受け渡し、どこか一人でアパートなり借りて住む事も考えた。
でも、父が家庭円満を夢見て建てた家を、私は手放せなかった。
私が中学三年生に上がる頃に家族と住み移ったこの家は、一年と半年程で家主を無くした。
決して円満とは言えなかったかもしれないが、それなりに父も母も幸せそうだった。
そんな両親に、私は謝る事もできずにいる。
大学まで出れば、残してくれた有りすぎる遺産や、弟の望まれた将来から、呪縛が解けるような気がしていた。
階段をおり、右側に広がるリビングを横目に玄関にあるスニーカーを履いて、重い玄関のドアを押した。