立ち上がりテーブルに無造作に置いてあったキーケースを取ると、私に向き直り「忘れ物ねえか?」と話掛けた。
「大丈夫です」
「おし、行くぞ」
鞄を持って瑠衣斗の後を追い、並んで玄関を出た。
エレベーターへ向かうと、ちょうど停まっていてそのまま乗り込んだ。
「あいつらまじで急すぎんだよ」
そう言った瑠衣斗を見上げると、顎に髭が生えていた。
瑠衣斗がボタンを押すと、静かにエレベーターが動き出す。
剃り忘れたのか面倒だったのか。
多分面倒だったんだろう。
「年中お祭り騒ぎじゃん」
「まあな」
そう言って苦笑いする瑠衣斗こそ、お祭り騒ぎが大好きな人間だと思う。
一階へ着き、エントランスを抜けて備え付けの駐車場へ向かう。
少し歩くと、瑠衣斗の大きなワンボックスの黒い車が停まっている。鍵を解除する軽快な音が響いた。
「乗れるか?」
ニヤリと口元だけを持ち上げた瑠衣斗が、ドアを開けた向こうから覗き込んでいた。
「乗れますが」
口を尖らせてムッと答え、勢い良く助手席に乗り込んだ。