「…もも?」
「っぎゃーーー!!!!!」
背後から聞こえてきた声に、思わず持っていたハンガーもジャケットも放り出し、叫んでいた。
「…何だよ。俺んちには俺しか居ないぞ」
「は、はは…ご……っ」
ゆっくりと振り向き、また叫びそうになって唇を噛み締めた。
「ご?」
「なっ…なん…でも?」
乱れた黒い髪に、胸元がほぼはだけたままの慶兄に、顔がどんどん熱くなる。
ここが暗くて良かった……。
リビングから入り込む光が、慶兄を背後から照らし、何ともいえない色気が大放出されているみたいだ。
「あ〜…今ので目ぇ覚めた。そういや、スッピンみてぇだけど…もも風呂は?」
「へい?あ、時間あったから済ませてきた…」
ハッとして、慌ててしゃがみ込んでジャケットとハンガーを手探りで掴み、立ち上がって身を固めた。
「うっ!?」
固めたと言うよりも、動けなかった。
「…もも」
後ろから私をグッと抱き締めた慶兄は、寝起きのせいか眠気のせいか、体が暖かい。
思わず拾ったジャケットとハンガーを、思わず強く握りしめ、目を泳がせた。
「け、けーに…」
「やっと…会えた」
石鹸の香りがやけに濃く香るようで、私を包み込み、慶兄が首筋にそっと唇を落とした。