「そんな…よく分かんないんだけど」


「思い出すまで、何も言わねぇ」



ツーンと目を逸らした瑠衣斗に対して、ますます眉間のシワが深くなるようだ。


「ヒントぐらい…くれたっていいじゃんか」


「ヒント?ヒントは…俺とももだけしか知らない約束」



るぅと…私しか知らない?



「…尚更難しいんだけど」


「……ひでえ」



そんな事言われても…そもそも約束なんてしたっけ?


「ま、いーや。今更だし、ももが思い出すのを待つのは慣れた」


「今更?…待つ?」



ちんぷんかんぷんな事を言っているようにしか思えず、思い当たる事もない。


「もういいって。その内な」


「……その内教えて」


「自分で思い出せ」



納得いかないし、気になってしまう。


私はどちらかと言うと、記憶力はいい方だし、瑠衣斗と何か約束なんて普段しないので、忘れる事もないはずだ。



「じゃ、そろそろ行くな。ゆっくり休めよ」


「え?あ、…うん、ゴメンね今日は」



瑠衣斗は再びヘルメットを被り、私に目を向けた。


「明日、宗太んち来いよ?じゃーな」


宗太の家…?


「――あ、ちょっと!!」



エンジンを付けたと思った途端、勢い良く瑠衣斗は走り去ってしまった。



暗闇に浮かび上がるテールランプは、低いエンジン音と共にどんどん小さくなっていつしか消えてしまった。