ただひたすらに、瑠衣斗にしがみついていた。
周りの景色も見る事もせず、風を強く感じながら目を固く閉じていた。
どこを走っているのかも分からなかったが、瑠衣斗に身を任せるしかなかった。
しばらく走っていると、ゆっくりと減速しながら単車が停まった。
目の前には、見慣れた自分の家が暗闇に浮かび上がって見える。
誰の気配もない家が、私を拒絶するかのようにも見える。
「着いたぞ?体調悪いんだろ。早く休んだ方がいい」
ヘルメットを取った瑠衣斗は、肩越しから振り返りながら私を横目で見ていた。
ポンポンと優しく手の甲を撫でられ、グッと腕に力を込めていた事にハッとして慌てて手を離した。
「あ、ゴメンね。ありがとう」
ヨロヨロと降りる私に、瑠衣斗は手を貸しながら、もう一方の手でヘルメットを抱えていた。
「ももさ」
何とか地面へ立った私に向かい、瑠衣斗がポツリと呟くように声を掛けた。
「ん?なに…」
目を向けると、月明かりが瑠衣斗の頬を青白く浮かび上がらせ、何か真面目な顔をした瑠衣斗に釘付けになってしまった。
「…お前さあ、俺の前まで無理すんなよ」
「…無理……?」
軽く眉を寄せた瑠衣斗から、目が離せない。
心臓が煽るように、強く鼓動し、息がしずらい。