「俺さー、こう見えて実は坊っちゃんでね?あ、だった。かな?」


「…え?」



坊っちゃん…純平さんが?坊っちゃん…?


「世間一般で言う御曹司ってやつ?」


「……うそ」


「いやマジだから」



がははと笑う純平さんに対して、夏希は顔を緩めて笑っていた。


「んでまあ…英才教育やら何やらで、爆発しちゃってね」


「……」


私は、ただ純平さんを見つめるしかできない。

自分が今どんな顔をしているのかも、全く気にする事もできなかった。


「でも、飛び出してみたら俺には場所なんてなくて…昔は常に死ぬ事を考えてたからさ、そーゆう場所探してたんだな~」


「死ぬ…な……んで?」


「ん?俺は…計算?仕組まれて作られたガキだったからさ。俺の人生に俺の意思なんて必要なかったから。死ぬ時ぐれぇ俺の意思でいいだろ?みたいな」



切れ長の奥二重の黒い瞳には、悲しみも嘆きも、何も感じなかった。


むしろ、本当に思出話をしているような、楽しんでいるような口振りだ。


「んーで、たまたま運悪くヤベェお兄さん達にボコられて、繁華街の裏道のゴミ捨て場で死にそうだった所を、たまったまコイツに拾われてしまったワケだ」


「マジな~。俺も運がわりぃなあ」


「マジでな」



笑い合う二人の会話は、異様なモノなのに、それをも感じさせない明るさだ。


「な~んか、昔の俺みてぇ」


「一部な」


そう言って向けられた視線にも、私はもう驚きもしなかった。


何かモヤモヤしたものが、スッとなくなるようだった。