受け取りながら名前を呼ぶが、マグを見つめたまま瑠衣斗を見る事はなかった。


「何で…怒ってんの?」


「……」



ポツリと言った私の言葉に、瑠衣斗は返事をくれない。


マグに口をつけて一口珈琲を飲むと、ブラックの苦さが身に染みるようだった。


「…怒ってねぇ」


「え、違うの?」



ずっと不機嫌だった理由も分からなければ、怒っていないと言ったのに不機嫌そうな理由も分からない。


「気にすんな」


「…は?するでしょ」



ハッキリしない瑠衣斗に、思わず視線を向けると、いつの間にか瑠衣斗は私をじっと見つめていた。

いつから見られていたか分からず、思わず口をつぐんでしまい、胸がドキドキと高鳴りだした。


煙草はもう消されていて、ただじっと瑠衣斗の色素の薄い瞳が、私をじっと見つめている。


吸い込まれそうな瞳は、何か言いたげに揺れ、私は声を出す事もできなかった。


「……俺は…、」



ゆっくりと口を開いた瑠衣斗を見つめたまま、視線を外す事ができない。


次に続く言葉を待つ時間が、とても長く感じる。



どうしよう…。胸が切ない。

じっと見つめる事しかできない自分が、もどかしい。



すっと視線を下げた瑠衣斗は、一瞬目を閉じたように見えたが、すぐに私にまた視線を向けた。


「――…え?」




一瞬の瞬きもできないまま、軽く触れるだけのキスを瑠衣斗は私の唇に落とし、すぐに離れていった。


「…そーゆう事」



な…に?どう言う事……?