呼び出し音が鳴り出し、その間に顔の熱を取ろうと手で顔を煽ってみた。

気休めにもならないが、だいぶ気持ちが落ち着いていくようだ。


「…………あれ?」



一向に繋がらず、虚しく呼び出し音だけが続く。


「まだ仕事…かなぁ?」


「出ねえ?」



ようやく笑いを引っ込めた瑠衣斗は、少し考えるようにしてから私に目を向けた。


「まあ…医者だしな。病気は待ってくれねぇし」



そうだよね。慶兄は、沢山の人の命に関わっている仕事なんだ。


こうやって、誰かと付き合う事は、相手の知らなかった事も沢山知っていくんだ。



大変な仕事だとは思っていたけど、慶兄から自分の仕事の話を聞いた事がない。


精神的にも肉体的にも大変に違いないのに、愚痴や弱音を聞いた事すらなかった。


それなのに、貴重な休みに私を探し回ってくれたりして、遅くまで私の面倒を見てくれていた慶兄に、胸がグッと詰まるような感覚になった。


「…凄いね、慶兄って」



思わずポツリと出た言葉に、瑠衣斗がチラリと私に目を向けた。


「べた褒めだな」