「だ、ダメダメダメっ!!ま、待ってー!!」
「………」
ピタリと動きを止めた隙に、緩んだ腕をほどいて慶兄の下から抜け出した。
「…わ、私…その、え~…ゴメン…」
深く俯いて、前を掻き合わせたまま、顔を上げる事ができない。
何も言わない慶兄が気になるが、俯いたまま身を固めるしかできなかった。
「……ぶっ…くっ」
…え?
思わず顔を上げると同時に、お腹を折って肩を震わせる慶兄を、呆然と見つめるしかできない。
「んな…っ全力でっ…くっ」
「………」
笑い続ける慶兄は、肩を大きく揺らしている。
何だか恥ずかしくなってきて、顔が熱い。
「……ぶっ…ま、真っ赤…」
チラリと視線を私に向けた慶兄は、再び笑いだしてしまった。
「慶…兄さん…」
「や、やめろっ…腹…いてっ…ふっ」
あー…うん、ね。何だろうこの差。
でも、ホッとする自分がいて、これで良かった気がした。
中途半端な気持ちのまま、先には進めない。
それは、慶兄は良くても私が良くない。
辛い事を忘れさせようとしてくれた慶兄は、本当に優しい。
申し訳ないような、恥ずかしいような照れ臭いやらで、感情がぐちゃぐちゃだけど、不思議と笑っている慶兄を見ているとホッとした。