唇が震える。目の前が歪む。
もう、絶対悲惨な顔になっているに違いない。
でも、そんな事は気にしていられない。
「ダメじゃない。俺がそうして欲しいんだ。だから…、」
勢い良く首を横に振り、慶兄の言葉を遮った。
もう、顔を上げて慶兄を見ても、表情が分からない。
「け…にぃっ…辛い、じゃんっ」
私の言葉は、瑠衣斗が好きと言う事を認めるような言葉だと思ったが、今は気にしていられなかった。
私は、慶兄の優しさに甘えられる程の人間じゃない。
「辛くない。言っただろう?ももには幸せだと思ってもらえればそれでいいんだ。相手が誰でも、俺はももが幸せなら嬉しいから」
溢れてくる涙を止める事も拭う事もせず、じっと慶兄を見詰めた。
やっぱり滲んでよく表情は分からないけど、私はじっと慶兄を見詰めた。
「拒否権は…ないぞ?」
そっと涙を拭ってくれた両手は、そのまま頬に添えられた。
少しクリアになった視界には、ニッコリと笑う慶兄が目の前にいる。
「けぃ…に…」
「無理矢理だとは思う。でも…付き合ってもらうからな」
ドキドキする鼓動は、どう言う意味で高鳴っているのだろう。
今の私には、それは分からない。きっと、この胸の鼓動も、その意味を分かっていない。
「もも…」
名前を呼ばれ、そっと顔を近付けた慶兄に、私は自然と目を閉じた。