慶兄は、絶対に私が好きな人は瑠衣斗だと気が付いているだろう。



でも、絶対に慶兄は、瑠衣斗の名前を出さなかった。



「そいつの事を忘れてくれとは言わない。ただ…俺のそばで笑っててくれないか?俺の前で泣いてほしい。一人で泣くな」



それで…いいの?慶兄は?辛くないの?



言葉にしたいのに、言葉にできない。切ない思いが胸を圧迫して、喉を詰まらせる。


「まあ…悪いけど拒否権は与えてやらねえ~。ももが…どうしてもっつーなら、その時は離してやるよ」


「でもっ!!け、…にぃ…」



思わず顔を上げると、慶兄と目が合って言葉を飲み込んだ。



「…俺の我儘だ」



優しく笑う慶兄は、どこか痛みを堪えているように感じる。


私は、きっと慶兄を傷付けてしまっている。


そして、これからも傷付けてしまうと思う。



そんな事できないよ…。そんな都合のいいようにできない…。


「…慶兄…、そんなのダメだよ…」