「……もも」
動きを止めた慶兄は、上半身を少し私から離すと、私と目を合わせた。
「…ごめっ、わ、私…」
気が付くと、涙が溢れて頬を伝っていた。
感じた事のない感覚に、私は怖くなって泣いてしまっていたようだ。
そんな私を、眉を寄せて困ったような笑っているような顔をして見つめた慶兄は、手のひらで優しく涙を拭った。
「…ゴメン。怖い思いさせたな…」
違う…そうじゃないよ。慶兄が怖いんじゃないの…。
言いたいのに、喉が詰まったように何も言えず、慌てて首を横に振った。
「悪い…理性が飛んだみてえだ」
苦笑いするように笑って見せる慶兄は、申し訳なさそうに私の頭を撫でている。
ふるふると頭を横に振って否定するが、体が震えてしまっている。
違うって伝えたいのに、伝える事ができない。
「っごっ…ごめ…ね?……わたっ…しが、」
「いいよ。ゴメンな?」
ギュッと引っ張り上げられると、慶兄は私を抱き締めた。
抱き締める慶兄の腕が、ポンポンと背中を優しく叩いてくれ、思わず慶兄の背中に腕を回した。