「んじゃ、慶兄あとヨロシク」
「おう。じゃあまたな」
ヒラリと手を振ると、家の前に停めてあった単車にまたがり、ヘルメットを被るとエンジンをかけた。
プッと軽くホーンを鳴らすと、勢い良く加速して走り去ってしまった。
赤いテールランプが、流れ星のようにあっという間に消え、住宅街に再び静寂が訪れる。
「もも、うちに来るか…?」
そっと耳元で話す慶兄に、私は一度だけ小さく頷いた。
家にひとりぼっちで居たくない。
できる事なら、家に入りたくない。
きっと、“りな”さんの言葉が蘇ってくるから。
私は、その言葉に負けてしまう気がする。
二人の、キスを思い出してしまうから……。
優しく頭を一度撫でると、そのまま慶兄は私の手を取り、ガレージへ停めてあるらしい車へと向かった。