暖かく私を包み込む慶兄からは、消毒液の匂いや、病院の独特な匂いがする。
病院の仕事は抜け出せないだろうし、仕事が終わってからすぐに探しに来てくれたんだろう。
何も言わず、ただ優しく抱き締めて背中を撫でてくれる慶兄に、気が付くと私はしっかりとしがみついて泣いていた。
「慶兄、とりあえず全員に連絡はしといた」
いつものふざけた龍雅ではなく、真面目な口調に違和感を感じる。
「ありがとな。とりあえず、もう遅い。後は俺に任せとけ」
私を抱き締めたまま、慶兄が後ろを振り返ったのが動きで分かり、私も龍雅に謝ろうと慶兄の胸元から顔を上げた。
「りゅぅ…っごめ…」
「気にすんなよ。ももの泣き顔、初めて見れたし許~す!!」
手のひらで涙を拭いながら言うと、龍雅はニッコリ笑って私に向かってそう答えた。
その笑顔に、また涙が溢れてきてしまう。
壊れた蛇口のように、止まる事を知らない私の涙は、体のどこでこんなに溜まっていたのだろう。