「まじ店来いよ。連絡する」
大通りからタクシーを拾ってもらい、中へ乗り込んだ。
「ありがとう。今度お邪魔する」
窓越しから夏希を見上げると、優しく笑って手を上げている。
「もう変な奴に付いてくなよ~」
「そう言うって事は、夏希は変な奴なんだね」
「ん~確かにっ!!」
前から友達だったような、そんな不思議な感覚に、私の心は穏やかになっていた。
「じゃーな!!」
大きく手を振る夏希に向かい、手を振り返すとタクシーが動き出した。
ここに来るまでは、心が壊れたように何も感じなかった。
どうやって来たのか、どこなのかも分からなかった。
夏希に声を掛けられなかったら、今頃どうなっていたんだろうと考えるだけで怖い。
小さくなっていく夏希は、恥ずかしげもなくずっと大きく手を振ってくれていた。
やがて見えなくなると、突然寂しさに胸が潰されそうに切なく疼く。
一人になると、思い出す事はただ一つだけだ。
忘れていた訳ではない。考えないようにしていただけだった。