私でも名前が分かる、慶兄の高級車に乗り込むと、シートベルトをして膝に鞄を置いた。
何だか違和感があって、落ち着かない。
ゆっくりと走り出す車に身を委ね、すっかり暗くなった流れる景色を眺めた。
海でみんなとお花見とバーベキューをした以来だったせいか、会話も見当たらない。
「微妙に久しぶりだな」
声を掛けられて慶兄を見上げると、口元に笑みを浮かべて運転をする慶兄に、ドキリとした。
私の事が好きだと言った慶兄を、意識しずにはいられない。
でも、瑠衣斗と似た横顔にも、意識しているに違いない。
「そうだね。仕事は忙しい?」
「今はどこも人が足りてないからなあ。忙しいよ」
苦笑いする慶兄に、思わず笑いが漏れた。
「慶兄って、患者さんに人気ありそ~」
「俺?そうでもないぞ?」
笑いながら応えてくれて、緊張感が緩んだ。
「お医者さんかあ…何かいいね」
「一言で言えば、そりゃ大変だけどな。良い仕事だよ」
穏やかに言う慶兄は、本当に今の仕事が好きでやっているんだろう。
「ももは将来の夢とかないのか?」
「…夢?夢かあ…」
改めて言われると、寂しい事だけど、考えた事ないかも。