「あ!!あの…私、予定あるから行くね!!」
瑠衣斗が持っていた鞄を肩から取り、慌てて離れた。
「ちょ…もも」
目をまん丸にした瑠衣斗と、一瞬目が合ったが、すぐに逸らしてしまった。
きっと、とっても不自然だったと思う。
ドキドキする心臓と嫌な感覚に、体が震えている事に気が付いた。
「じゃあね」
笑って言ったつもりが、きっとひきつっていたと自分でも思う。
「おいもも!!」
聞こえないふりをして、人波に紛れた。
彼女の手は、私が鞄を取った一瞬の時以外、ずっと瑠衣斗を離さなかった。
人を避けながら、足早に人波を歩いた。
今は、このたくさん人の声や、アナウンスがホッとする。
私は、逃げたのかもしれない。
気を使ったつもりで、自分が居たくないがために逃げたのだ。
こんなにも気の弱い臆病な自分が、とても情けなくなる。
一度も振り返る事もしずに、ひたすら人波を掻き分けて歩き、大きな交差点の信号で足を止める。
爪が食い込む程握り締めていた手を、そっと緩めた。
胸がはち切れそうなくらい、痛い。