時間が止まったようだった。
音が耳を素通りして、瑠衣斗の鼓動を背中で聞いていた。
胸が切ない。
チーンと言う音が聞こえた気がして、目をゆっくり開けた。
…オーブン?
そう思った瞬間、瑠衣斗の腕から力が抜けた。
「できた。食うか」
あっさりとそう言うと、すんなり私を解放した。
…え!?ちょっとあのぉ~…。
勢い良く振り返ると、スラリと伸びた長い足が、ゆっくりとキッチンへ入っていく所だった。
広い背中を見送りながら、何だか感じた事のない胸の苦しさに戸惑い、どうする事もできなかった。
キッチンで動く瑠衣斗を眺めながら、やっぱりこの切ない胸の苦しさが確かな物だと感じながら、私はぼーっとするしかなかった。
ハッとして、とりあえず手伝おうと思い、勢いをつけてソファーから立ち上がり、キッチンへ向かった。