次の日、帝は、しずかの元へと出向いた。
二人に言われた通り、確執を持たないように、肝に銘じながら…。
「(少しだけ話して、帰ればいいだろう。)
(大丈夫だ!!)」
帝は、意を決して、しずか邸の中に入った。
帝が来てくれたことに、しずかは大喜び。
「ようこそ、おいで下さいました。
どうぞ、中へ。」
「う…、うむ…。」
帝は、内心びくびくしていた。
「帝…?」
「あ…、あぁ…、すまんな…。」
帝は、屋敷の中に入った。
しずかは、侍女達に、命じた。
「帝に、お食事とお酒を…。」
「は…はい。」
侍女達は、すぐに準備した。
「さぁ…、帝…。」
しずかは、お酌した。
「う…うむ…。」
食事も終わり、帝は、しずかを自分の胸に抱き寄せた。
「帝…?」
「寂しい思いを…、させて…、すま…なかった…。」
しずかは、首を横に振った。
帝は、しずかを強く抱きしめた。
その時だった…。
「愛おしい、帝…。」
生き霊と同じ言葉を言ったしずかを、帝は突き放した。
「帝…?」
「何が何だか分からない。」と言った顔のしずか。
「すまない…。」
「帝…?
どうしたのです?
帝!!!!」
すがろとした、しずかを、帝は振り向きもせず、帰った。
しずかは、怒り狂った。
「帝…、どういう事ですか?!!
なぜ、帰られた…?!!」
しずかは、両手で両耳を塞ぎ、叫んだ。
「憎い…、憎い…、憎い…。」
しずかは、再び、生き霊になった。
それを、察知したのは、珱姫。
「晴明様…。
しずか様が、生き霊になられました…。」
「なんやて?!
術が、破られたんか?」
「はい。」
「帝の所に、行かへんと…。」
「はい…。
今回は、剣が必要ですよね…?」
「一応、要るやろな…。」
二人が、準備していると、帝の遣いが来た。
「晴明、珱姫。
帝がお呼びだ。
我らと、参られよ。」
「準備しておりますので、お待ちください。」
珱姫は、障子戸お閉めた。
しばらくして、準備を終えた、晴明と珱姫が、出て来た。
「ほな、参りましょ。」
二人は、帝の元へと向かった。
晴明と珱姫は、帝の部屋に入った。
「帝、これは、どう言うことですか?」
晴明は、問いかけた。
「すまぬ…。
私は、やってしまった…。
しずかを拒絶してしまったんだ…。」
「やはり、そうでしたか…。
妻の術が、破られたと聞き、まさかとは、思いましたが…。」
「すまぬ…。
しずかは…、しずかは…、どうなるのだ…?
また、私を殺しに来るのか…?」
珱姫は、静かに、口を開いた。
「再び、帝のお命を取りに参られるでしょう。」
「私は、どうすれば、良いのだ?
殺されてしまうのか?」
「そのようなことは、させません。
あたしと晴明様で、お守り致します。
その為に、準備して参りました。」
「おぉ…。
それは、心強いっ!!」
「ですが、今回は、前回のようには、いかないでしょう…。
しずか様を助けることが、出来ない可能性が、高うございます。」
「なんと…!!」
珱姫は、続けた。
「しずか様は、以前まで、般若のお顔をされていました。
今回も、般若のお顔をされていれば、お助け出来ますが、鬼のお顔になられていたら、お助け出来ません。
ご覚悟を下さい。」
「そうか…。」
晴明と珱姫は、術式の準備に入った。
「珱姫。
鬼のお顔やったら、刀使うで。」
「はい。」
晴明と珱姫は、着々と、術式の準備を進めた。
そして、前回と同じ様に、人型を帝の寝床に置き、周りにコノハナサクヤ神社のお札を置いていった。
勿論、人型の上にも置いた。
晴明は、帝に説明した。
「帝、今回は、初めての時と同じ様に、結界から、一歩もでず、一言も話さないように、お願いします。」
「分かった。」
帝は、結界に入った。
丑三つ時。
「ここから、一言も話さないように、お願いします。」
帝は、静かに頷いた。
しずかの生き霊が、ゆっくりと、こっちに向かって来た。
帝の部屋に入った時の、しずかの顔は、まだ、般若だった。
晴明と珱姫は、安堵した。
しずかの生き霊は、迷いもなく、人型の首を絞めた。
「帝…、よくも、私を突き放しましたね?
…許さない…。
憎い…、憎い…、憎い…っっ!!」
しずかの生き霊は、更に、力を入れ、首を絞めた。
首を絞めた後、懐から懐剣を出し、人型を刺し始めた。
晴明と珱姫は、祝詞をを唱えた。
苦しみだす、しずかの生き霊…。
それでも、しずかの生き霊は、刺し続けた。
「死ね…、死ね…、死ね…っっ!!!
私を突き放した罪、じっくりと、味わうがいい!!!」
しずか生き霊の顔は、鬼になった。
その瞬間、珱姫が、吹き飛ばされた。
「珱姫っっ!!」
珱姫は、宙返りをし、体制を整えた。
「大丈夫です!!
晴明様、式神を使いますっっ!!!」
「珱姫!
これ以上、式神を使うたら…。」
この時、珱姫は、十体の式神を出していた。
「大丈夫です!!
まだ、出せます!!!」
珱姫は、式神を出した。
我が式神たちよ、生き霊を囲いたまえ!」
式神達は、しずかの生き霊を囲んだ。
「な…、なんじゃ…!?
この者達は!!」
しずかの生き霊は、式神達に、懐剣で、刺し殺そうとした。
だが、殺せる訳もなく…。
しずかの生き霊は、暴れ、苦しみ続けた。
晴明と珱姫は、呪文を唱えながら、珱姫は、塩と清酒をしずかの生き霊にかけ、しずかの生き霊は、のたうち回った。
晴明は、叫んだ。
「珱姫っっ!
刀やっ!!!」
「はいっっ!!」
珱姫は、刀を晴明に渡した、
「邪気退散っっ!!
喝っっ!!!」
晴明は、しずい向かって、刀を振り下ろした。
「うぎゃーーーーっっ!!」
しずかの生き霊は、叫びながら倒れ、消えた。
深く、深呼吸する、晴明と珱姫。
珱姫は、ゆっくりと、話し始めた。
「帝…、これで、帝のお命は、大丈夫です。
ですが、しずか様あ、残念ながら…。
鬼となりましたので、お助け出来ませんでした…。」
珱姫は、俯(うつむ)いた。
「そうか…。」
「あたしは、今日の朝、しずか様の亡骸に、お会いして参ります。」
「何故じゃ?」
「浄化させるためです。
このままでは、浄化出来ませんので…。」
「そうか。
珱姫、しずかを頼む…。」
「お任せください。」
「朝、お主の屋敷に、牛車を遣わそう。」
「ありがとうございます。」
晴明と珱姫は、お辞儀をし、屋敷に戻った。
「珱姫、大丈夫なんか?
吹き飛ばされたり、式神使うたりしたやろ?」
「大丈夫です。」
珱姫は、しずか邸に行く準備をしていた。
そこに、帝が、準備してくれた、牛車が来た。
珱姫は、牛車に乗って、しずか邸に向かった。
しずか邸に行くと、侍女達は、急死した、しずかに対し、慌てふためいていた。
「ごめんください。」
「これは、珱姫様!」
「しずか様にお焼香を…。」
「それは、ありがとうございます。
どうぞ、こちらに、ございます。」
珱姫は、しずかが眠る部屋に通された。
「急なことで…、わたし達も、戸惑いが隠せず…。」
「そうでしょうね…。
あたしも、一報を聞き、驚きました。」
「ですが、眠るように、逝かれたのでしょう…。
お顔が、とても、安らかで…。」
「え…、えぇ…。
(みんなには、そう見えるのね…。)」
「ただ、眠ってるようにしか、見えませんでしょう?」
「そうですね…。」
みんなには、しずかが、安らかに眠っているように、見えたが、珱姫には、鬼の形相にしか見えなかった。
珱姫は、和紙と櫁(しきみ)の葉を使い、祝詞を唱えた。
浄化が終わると、珱姫にも、ようやく、しずかの顔が、見えるよになった。
「(ようやく、お顔が、拝見出来ました…。」
しずかは、帝の言う通り、素朴な顔をした、女性だった。
「(しずか様、どうか、安らかに、お眠り下さい。)」
珱姫は、手を合わせた。
「珱姫様、牛車を用意致しましたので、お使い下さい。」
「ありがとうございます。」
珱姫は、牛車に乗り込んだ。
牛車は、内裏で止まった。
「珱姫、どうであった?」
「無事、浄化出来ました。
安らかに、お眠りになられております。」
「そうか。
大義であった。」
「ありがとございます。」
帝は、すぐに、部屋に戻って行った。
珱姫を乗せた、牛車は、晴明邸に向かった。
帰ると、式神が、迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。
珱姫様。」
式神は、桶に水を入れて来た。
「珱姫様、おみ足を洗わせて頂きます。」
式神は、珱姫の足を洗った。
「ありがとう。」
珱姫は、晴明の待つ、部屋に行った。
「ただ今、戻りました。」
「おかえり。
珱姫。
どうやった?」
「無事、浄化出来ました。」
「そうか。」
「初めて、しずか様のお顔を拝見する事が、出来ました。
帝の言う通り、とても、素朴なお顔をされていました。」
「そうか。」
「お酒の準備をして参ります。」
「あぁ、すまへん。」
珱姫は、酒の準備を始めた。
晴明は。酒が来るのを待っていた。
酒の準備している、珱姫の元に、珱姫の式神が来た。
「珱姫様、博雅様が、こちらに向かって、おいでです。」
「そう…。
わるいけど、出迎えを頼めるかしら?」
「かしこまりました。」
式神は、博雅を出迎えた。
「今日は、珱姫ではないのか?」
「はい。
珱姫様は、お酒の準備をなさってます。
「そうか!!」
式神は、博雅を晴明の所に案内した。
「晴明!!
やっと、居たな?
夫婦で、どこに行っていたんだ?」
博雅は、にやにやしていた。
「帝の所や。」
「帝…?
例のあれか…?」
「そうや。」
そこまで話したとこで、珱姫が、酒を持って来た。
「博雅様、ようこそおいで下さいました。
さぁ、博雅様。
一杯どうぞ。」
珱姫は、博雅にお酌した。
「あぁ、すまない。」
珱姫は、晴明にもお酌した。
「宮中では、しずか様あやったと、噂になっているが、本当なのか…?」
「あぁ、そうや。」
「人の執念とは、怖いものだな…。」
「だが、その執念が無くなったら、人は人ではなくなる…。」
そんな話しをしながら、酒を飲んだ。