「ご主人様……ご主人様! 起きて下さい!」

「うう……」



うめき声を上げながら目を開くと、どうにか体はコンテナの雪崩から免れていた。

どうやら倒れた衝撃で電源が入ったらしく、ポケットからライプラリを取り出すとひび割れた画面の向こうからメイが心配そうに僕を見つめていた。

そこでようやく状況を思い出し、僕は咄嗟にコンテナの陰に隠れる。

今の轟音と粉塵で五月雨は僕を見失っているはずだ。そうでなければ僕が倒れている間に止めをさされていただろう。

考えろ……頭を使え……勝ちたければ使えるものは何でも利用しろ。

「メイ、力を貸して欲しい! 僕はどうすればいい?」



僕がライプラリに向かって小声で問いかけると、メイは工場のマップを画面に表示した。

「ご主人様。まずはあのロン毛の化け物と戦おうという考えを捨てて下さい。第一優先は工場のどこかに隠されている『神様』を見つけ出すことです」

「分かってるよ! でもどこにいるのかさっぱり分からないんだ。もしこの無数にあるコンテナのどれかに隠されているのならお手上げだ」

「頭を打ってますますおバカになったのですかご主人様。戦闘の余波に巻き込まれるかもしれないのに、大事な『神様』をコンテナに隠すはずがありません」



確かにその通りだ。実際僕が激突したコンテナの山にもし隠していたとしたら、彼女は今頃肉塊になっているだろう。

「今熱源反応を調べてみましたが、この周囲にそれらしき反応はありません。恐らく『神様』が隠されているとしたらコンテナエリアではなくラインエリアのどこかです」

「ラインエリア……そこに行けば熱源反応でラプラスの居場所が分かるんだね⁉」

「と、言いたいところなのですが……今ラインエリアは先程ご主人様がレールを稼働させたせいで大量の熱源が発生している為、熱反応で『神様』を特定するのは困難です」



なんてことだ……さっきの歌姫との戦闘が、今になって仇になるとは。

「レールの稼働を止めたら特定出来るかな?」

「止めてもすぐには熱源は消えませんし、そもそもあの化け物にこちらの位置がバレますよ?」

「なら直接この目で確かめに行くしかない」



僕はコンテナの陰から出ようし、ハッとしてメイに囁いた。

「今五月雨はどこの位置にいるの?」



すると、メイは困った様子で目を伏せた。

「それが……なぜか工場内の人間の反応がご主人様しかないんです」

「そんなバカな。もしかしてラインエリアに先回りして、機械の熱反応に紛れ込んでいるのか?」

「その可能性はありますが疑問は残ります。なぜ五月雨終は、ご主人様を追撃せずわざわざ先回りをするような真似をするのでしょう? 彼は『本気で』ご主人様を殺したいんですよね?」

「ラインエリアに隠したラプラスを防衛をする為じゃないのか?」

「どこまで脳内お花畑なんですか、ご主人様は。わざわざ敵に自分の隠した物の場所を教えるバカがどこにいるんです?」



相変わらずのメイの毒舌に少しイラっとしたが、確かに彼女の言う通りだ。

なぜ五月雨の熱反応が感知できないのか。

そして一番の疑問は――そもそも五月雨はなぜさっきの攻撃で僕を仕留めなかったのか。

「どのみちここにいても仕方ない……一か八か、ラインエリアまで行ってみる」

「どうか気を付けて、ご主人様。なんだか凄く嫌な予感がします」

「勇気の湧いてくる忠告をどうも」



精いっぱいの皮肉で返して、僕はコンテナの陰から足音を立てずに飛び出した。