そんな商店街を抜けると、もう目の前は駅だった。駅の中にある百貨店へ向かう。

百貨店の商品はどれも高い。当たり前のことだが、それを買う客もお金を持っていそうな人ばかりだった。

大粒の真珠のネックレスや、艶のいいカバン、オシャレに巻かれたパーマの人々が目に入る。
場違い感はもちろんあった。

だが今日は。今日だけはこの人たちと同じになれる。

「いらっしゃいませ」

優しい声と微笑みが私たちを出迎える。目の前に広がるのは、当然ながらブランド物の服屋だ。

「ナガトもいいの選んでよ。私に似合うパーティドレス」

掛かってあった白いドレスのスカートを、広げ見ながら呟く。

横目で様子を見ると、ナガトは少し口を尖らせ、嫌そうな表情をしながらも店内を見回していた。

「何か、お探しでしょうか」

高らかな声の女性店員が、美しい営業スマイルを浮かべている。私もその色を真似て、作り出してみた。

「可愛いパーティドレスを探してるんです。あとはカバンと靴も欲しいですね」

「それでしたら、こちらの白いドレスはいかがでしょうか。新作でして、今とても人気なんです」

差し出されたドレスは、ウエディングドレスのような白さに、七分袖と襟元がレースというもの。

スカート部分がふんわりと優しく落ちていて、逆さにするとブーケのようだ。

「綺麗ですね!うーん、でも、もう少し暗い色か赤めの色はありませんか?泥や血で汚れると、せっかくのドレスが台無しですから…」

一瞬その人の頭に、はてなマークが浮かぶ。

当たり前だ。パーティドレスを着て、一体どこに行くんだと思うだろう。でも、流石は百貨店の店員。顔色を変えず、丁寧に説明してきた。

「そうですね。こちらのモデルは最新のため、まだ白色しか発売されていません。申し訳ございません。ですが、旧型のモデルでしたら、紺やワインレッドなどがございます。少々お待ちください」

目で頭を下げ、その場を立ち去り探しに行く。

私は、渡された白いドレスを元の位置に戻した。隣や向かい、奥にも様々なドレスが置かれている。

綺麗だ。私の家にあったパイプハンガーとは月とすっぽんだな。

昔はきっと、こんな場所に来たら目を輝かせて商品を見ていた。だが、どうしてだろう。綺麗だとは思っても、心がまるで反応しない。

胸に手を当ててみる。

踊っていたはずの鼓動は、もう酸素を送る機械でしかなかった。

ああ、やはり死んでしまったんだな。

冷たい目で、まだ暖かい手のひらを見る。こんな状態でも、果たして私は〝生きている〟のだろうか。

人間とは不思議なものだ。

「ナガト、いいのあった?」

「…わかんね。だってどれもいい物じゃないか」

「……そっか」

ナガトの言葉も不思議だ。それほど会話をしていないのに、一つ一つの言葉が前向きで、生きているという感じが伝わってくる。

自分が生きるために子供を助けなかったのは、どうかと思うけれど、何故か私より正しい感じがして嫌だった。