彼女を包む光は輝きを増していき、広がっていく。
それはとても神々しいというか…神秘的な光景だった。
「…ナウマク・サンマンダ・ポダナン・ギャキ・サラバビギナン・ソワカ…」
繰り返される真言詠唱の中で、吹き起こる風の音に紛れて…彼女の声が聞こえた。
《…わかってた…》
光と風に乗りながらも、人の表情を取り戻した鹿畑倫子さんは、涙を浮かべたままの瞳でこっちを見ている。
《…本当は、わかってたの…》
こっちというか…母さんの方を見ているようだ。
《…彼が、あなたを…愛し始めていたことを…》
「り、倫子さんっ…」
「…あ、母さん!」
母さんが、その名前を呟きながら、俺の手を離れてフラフラと彼女のもとへと向かっていく。
彼女の方へと引き寄せられるように。
っていうか、どこ行くんだ!
そっちは、風が吹き荒れていて危ないって!
慌てて追いかけて母さんの腕を捕まえる。
しかし、制止されていようがお構い無しに、母さんは光と風に包まれた、遠くにいる倫子さんの姿を見上げて声を張る。
「…ごめんなさい!…ごめんなさい倫子さん!…私が話をしに行けば、こんなことにはならなかったっ…!」