「なずな、何やってたんだ!」
ようやく姿を現したなずなに、菩提さんはイラッとした口調で怒鳴り掛ける。
だが、当の本人はツラッとしていた。
「いやぁ…睡蓮華仕込もうと、機会を狙っていたんだけど…」
そう言って、どデカい妖怪の姿を指差す。
「…状況、変わってね?」
指差す方向を、菩提さん含めてみんなで一斉に見る。
そこは、妖怪になった鹿畑倫子さんの…顔。
崩れきってしまったその目は、確かにこっちを見ている。
ピクピクと動いた、憎しみの視線を送っている。
《愛していたのに…》
崩れきってしまったと思われる表情が…さっきと比べて変わっている。
人の顔に…?
《おまえのところに行くなんて…許さない…許さないぃぃっ!》
彼女が見ているのは、母さんだ。
《愛してるのに…許さないぃぃっ!》
憎しみの視線でギロッと睨まれ、怒鳴られた母さんは、ビクッとして俺の腕に顔を伏せていた。
「…自我が戻ってる」
菩提さんは、驚いた表情のままその姿を呆然と見つめる。
なずなも一緒になってその姿を見つめ、ボソッと呟いた。
「妖化しきったのに、自我が戻るなんて…初めて見た」