そこには、男性が立っていた。

俺がここに来るのをわかっていたかのように、出迎えている。



「…さあ、中に入って」



何を考えることもなく、その中へと足を踏み入れる。



…そこで、意識が途切れた。










漆黒の暗闇は、果てなくて。

どこまでも、どこまでも暗闇しかなくて。

何処へ向かって行けばいいのか、わからないんだよ。



それはまるで、俺の置かれている状況と同じで。

光がどこにあるかなんて、わからないんだよ。




…思えば、俺の人生には、親父や兄貴や家が付きまとってばかりいた。



何を頑張っても、頑張っても認めて貰えなくて。

その結果は常に親父や兄貴と比べられて。




…その比べられた結果。

『イケメンなだけの弟』と陰で言われて。

大切にしていた彼女は、兄貴の方に行ってしまった。




『伶士、すごいね!空手の試合準優勝だったね!』

『伶士、頑張ったね!』



…あぁ。

唯一、母さんだけは誉めてくれたっけ。



でも、そんな母さんを親父は愛人なんて作って裏切っていたんだ。



(許せない…)



腹の底にこさえた、真っ黒い感情が蠢いてくる。