しかも、忠晴ではなくわざわざ俺に頼むって、何で?
…冷静に処理すれば、わかることなのだけれども。
「…うん、わかった。今すぐ出る」
なぜか、承諾してしまった。
『じゃあお願いね?…忠晴は忙しいと思うから、タクシーに乗ってきて?』
「うん。わかった。急ぐね」
『ありがとう。ホテルで待ってるね?』
「…うん」
母さんとの通話を終えて電話を切る。
ベッドから離れてクローゼットに赴き、着替えを始めた。
…冷静に考えれば、疑問点はたくさんあるのに。
でも、言うとおりにしなければいけないと思った。
(…行かなくちゃ)
着替えを済ませて、部屋を出る。
リビングには顔を出さず、玄関へ真っ直ぐ向かった。
忠晴やなずなの姿はない。
玄関には、紙袋がひとつ置いてあった。
…これが、母さんの忘れ物?
そう判断すると、迷わずそれを手にする。
冷静に考えれば、この状況がおかしいってことはわかっている。
母さんが、俺に直接おつかいを頼むなんて絶対にない。
忠晴がいるのに、それに俺、体調不良なのに。