もう、夜?

俺、結構寝てた…のか?



(…あれ)



部屋の中は、薄暗くて静かで。

誰もいない。



なずなは…?



ボーッとした頭を抱えて、ゆっくりと体を起こす。

すると、枕元にあったスマホが光ってバイブを鳴らす。

…あ。スマホ、こんなところにあったのか。




手に取ってウィンドウを見る。

母さん…?



「…もしもし」

『もしもし?…あ、伶士?』



電話の向こうの声は紛れもなく母さんの高くて綺麗な声だ。

ざわざわとした雑音も聞こえる。



しかし、電話?

どうしたんだろう。

母さん、確かパーティーに行ってるはずじゃ…?



その疑問をそのままぶつける。



「どうしたの?」

『…あ、あのね?伶士にお願いがあるんだけど…』



お願い?

母さんが、俺に?



「何?」

『あのね、今ホテルに着いたんだけど、お母さん、玄関に忘れ物しちゃって』

「忘れ物?」

『で、それを今すぐホテルまで届けてほしいの。…いい?』




忘れ物…って何?

そんな、今すぐに必要なものなの?