(うあぁぁっ!)
その体を包む黒いモヤは、不快の一言で。
まとわりつく気持ち悪さに、吐き気を催しそうだ。
暗闇の中だけど、引っ張られて体がグルンと勢いよく回転しているのを感じる。
叫び声をあげても、モヤに掻き消されて自分の声が聞こえなかった。
「そいつに触るな!…我が力、風の刃と成れ!急急如律令!疾風刃!」
その声と同時に、突風が体の傍をピシャッと音を立てて通り抜ける。
吹っ飛ばされると、視界が開けてきた。
しかし、そこはさっきまでいた玄関ではない。
少しも見覚えのない所だった。
何も…ない。
ガランとしていて、物ひとつない。
日の入り前のような、濃紺の色をした空がずっと続いているような。
そして、そこには。
「ったく…わざわざ伶士を連れ込みやがって!とことんやってくれるよな?!あぁ?!」
いつの間にか、俺の傍にいるなずなと。
《邪魔シナいデ…邪魔しナイでぇぇっ!》
少し離れたそこには…さっきの。
学校から逃げる際に、遭遇した女性がいた。