恐怖で体を震わすことも出来なければ。

助けを呼ぶ声どころか、悲鳴すら出ない。

そして、彼女とまた目が合うと、更なる圧力に押されるように、体がズシッと重みに襲われる。

胸が詰まって、息が…!



《…私と、来るのよ…?》



ダメだ。行かない。

行けない。

誰か、誰か助けてくれ。



今、頼らねばならないヤツの名前を呼ぶ。

声は出ない、なので念じる。




(…鈴代なずなっ…)




その、ヒーローの登場を願う。

だが。






「…夜這いか?おまえこの」



その時、俺の体に乗っかっている彼女の背後から手が伸びてくる。

黒いオープンフィンガーの手袋を着けた手が。




…呼べば、いつだって来てくれるのか。

それは、まるでヒーローのように。




その手は、彼女の髪を背後からわし掴んで、グッと後ろに引っ張っていた。

頭が反り返った彼女の口から、おぞましく汚い悲鳴が響いた。

まるで、動物のような。



《ギャアアァァッ!…ギャアアァァッ!》

「ギャーギャーうるせえな。車に轢かれたカラスかおまえは」



更にグッと後ろに引っ張って、そのままずるずると引きずって彼女と共にベッドから降りる。

「ふんっ!」と声をあげて、彼女を簡単にポイッと放り投げていた。