顔なんて知らない。
どこの誰だか名前もわからない。
でも、知ってる。
…何でなんだろう。
刹那に響く、その掠れた声。
《私を…愛して!》
《許さない愛してる許さない愛してる…!》
あの…声だ。
俺や、教室でみんなを襲った、あの声…!
再び、現れた…!
今回は、キスマークでもバケモノの手でもない。
女性そのものが、俺の体の上に乗っかりマウントポジションを取っている。
メイクの濃い、妖艶な笑み。
揺れる金髪のショートカット。
頬をなぞる手から、爪が擦れる感触が。
爪…?
この長い爪…あのバケモノと同じ?!
(…うっ)
そのまつ毛の長い瞳と目が合うと、息が…出来ない。
依然、体も動かない。
抵抗したいのに、指先ひとつ動かないのだ。
そして、その女性は俺の耳元で囁く。
《…私と…一緒に、いてよ…?》
一緒に…?
だが、察知している。
彼女を取り巻く空気がとても危険なものであることは、もう理解してしまっているから。
《…ねえ、来て…?》
どこに…?
(だ、ダメだっ…)