そして、こっちにやってきた。
「…それに、こんな早い時間に学校行ってもなぁ?何もすることないし?…だから、お坊っちゃまは先に学校行ってくれ」
お坊っちゃま…。
一緒に学校行かなくても良いと言われたのは、有難いが。
その一言は、カチンとくる。
「…鈴代、ちょっと」
「ん?」
母さんから離れて、鈴代なずなを廊下に誘い出す。
…話を聞かれないようにするため。
鈴代は黙って俺に着いてきた。
母さんが向こうに行ったのを見計らって、話をする。
「…あの、まず『お坊っちゃま』はやめろ」
「…は?」
「あと…」
先日、口止めの話をしておかなかったことを思い出して、今ここで言おうと思ったのだ。
それは、俺がひた隠しにしていること。
普通の学校生活を送るための、秘密。
「俺が橘の息子だってことは、他の生徒に一切口外しないでほしい」
「…あ、そう」
表情変えずに、じっと見つめられる。
つけまつ毛で更に増した力強い目で。
ドキッとさせられて、怯みそうになるけど、話は続ける。