お昼に出されたリゾットはとっくに胃の中で消化されて、小腹が空いているはずだった。でも、心が食べたくないと拒否をしている。人は、体よりも心に従うみたいだ。

「……食べないの?」

寂しそうな目で、北上さんが私を見つめる。私はコクリと頷き、「食欲がないんです……」と疲れ切った声で言った。

キャラメルの甘ったるい匂いが鼻に入り込んでくる。この香りを嗅ぐたびに考えるのは、幸せだったあの日々のこと。だから、今はこの甘ったるいものを遠ざけてほしい。虚しさが増すだけだから。

「せっかく作ったんだし、一口食べて?」

北上さんはキャラメルを私の口元に持ってくる。キャラメルが唇に触れ、甘いあの味を脳が思い出す。私は口を固く閉じ、絶対に食べまいと抵抗した。

「……ああ、そういうことなんだね!」

困ったような顔をしていた北上さんは、何かを思いついたような表情だった。それはどこか嬉しそうで、私は身構える。