凛於、可愛い凛於。
凛於の真っ白な肌にはやっぱり真赤が似合うと思ってたよ。

綺麗だね。この血が全部凛於が生きてた証だって思ったら、溢れていくのさえ勿体ないね。

泣かないで。もう息も浅いし汗も止まらない。
どんなにもがいたって凛於は死んじゃうんだよ。
大丈夫、私がしっかり抱きしめててあげるからね。ちゃんと見届けてあげるからね。


カラン、と音を立て包丁がコンクリートを叩く。
私の両手は包丁では無く凛於の手を握りしめることに体温を注いだ。
暖かい凛於の血はまだ乾くことなく真紅を放っているが、それとは逆に凛於の瞳はどんどん生気を失っていた。

「凛於、ごめんね、大好きだよ、ばいばい。」
伝えたいことが多すぎて逆に言葉が出てこない。
思うように言葉にできない分、私は力いっぱい凛於をぎゅっと抱きしめた。


下弦の月が綺麗に見える、雲ひとつない、風も吹いていない、そんな夜だった。

やがて凛於は息をしなくなった。冷たくなった手から凛於の温度が全て流れ込んだように私の体温は上昇していた。
凛於が私のために、私によって、私のせいで終わったのだ。これ以上のことなんてない。
心臓が早鐘を打つ。酷く高揚している。
そうだ、今死ねたら。今死んでしまえたなら。

凛於を抱きしめる右手はほどかず、空いた左手で手探りで包丁を探す。
直ぐにそれを掴むと、真っ直ぐに私は自分の腹部へと突き立てた。

僅かな月明かりがてらてらと流れ出る血を照らした。