紗栄子が手にした制裁の槍が虎治の首めがけて高速で動いていた。



この槍が虎治の首に突き刺されば、虎治は間違いなく命を落とす。



そして虎治の命が消えることは辰雄の生死に直結する。



虎治が死んだそのときは辰雄も呆気なく殺されてしまうだろう。



辰雄は祈るような気持ちで虎治の勝利を願っていた。



そしてそんな辰雄の願いが届いたのか、虎治はギリギリで紗栄子の槍の刃先をかわし、その瞬間に、紗栄子と虎治は互いの顔に手が届く位置まで近づいていた。



虎治はバケモノと化した紗栄子から逃げることなく、逆に一歩踏み出し、紗栄子の腹に膝蹴りを入れた。



怪力の虎治の膝蹴りが紗栄子の腹に入ると、紗栄子の体はくの字に折れて、紗栄子の顔が苦痛で歪んだ。



辰雄はそのとき、紗栄子が無敵ではないことを初めて知った。



紗栄子は成人男性の二倍の力を手に入れたが、痛みは感じているし、攻撃をかわせなくもないのだ。



虎治の勝利の可能性がふくらみ出し、辰雄は自分の命が助かるかもと思って興奮していた。



このまま虎治が紗栄子を殺してくれればと願いながら。