「なぁ、虎治君。

本気で紗栄子と殺し合うつもりかよ。

そんなことしたら、本当に死ぬかもしれないんだぜ!

オレたち、殺されるかもしれないんだぜ!」



そう叫んだ辰雄の足はみっともなく震えていた。



辰雄はどうにかして、その足の震えを止めようと思ったが、足の震えはどうしても止まらなかった。



「びびってのかよ、辰雄。

紗栄子ごときによ!」



「でも、虎治君……」



辰雄が何かいいわけをしようとしたとき、虎治は辰雄の頬を思いっきり殴っていた。



辰雄は顔面を殴られた衝撃で校舎三階の廊下で倒れ込み、口の中が切れ、ペッと血を吐き出した。



「気合いで負けたらケンカは勝てねぇんだよ!

勝つこと以外、考えるな!

紗栄子をぶっ殺せばそれで終わりだ!」



辰雄はまだ紗栄子の恐怖を胸の内に抱えながら、ゆっくりと立ち上がった。



そして納得がいかない虎治の言葉を心の中で反論していた。



(気合いでケンカに全勝できるなんて思っているのは、ケンカに負けたことがない虎治君くらいだよ。

オレたちは虎治君と違って特別じゃない。

必死になってケンカしても、負けることだってあるんだ。

絶対に勝てない相手がいることを知っているんだ)



辰雄は立ち上がって、また虎治と向き合ってみたものの、足の震えは止まらなかった。



辰雄は身体中で死への恐怖を感じていた。