凉子と麻耶は音楽室のベランダ側のドアから音楽室を抜け出し、命をかけて全力で走っていた。



もしも紗栄子に追いつかれたならば、自分たちは紗栄子が手にしている槍で無惨に殺されてしまうだろう。



凉子と麻耶は闇夜の中庭を恐怖の中で全力で走り、紗栄子を振り切ることだけに集中していた。



(私たちはいじめで苦しむ紗栄子を助けるべきだったの?

確かに私は見ていた。

教室の中で紗栄子がいじめられている姿を……。

紗栄子は人間扱いされてなくて、いつもバカにされて、笑われて、自尊心を粉々に壊されていた。

あんなにひどいいじめは普通じゃ考えられなかった。

本当ならば、誰かが紗栄子を助けるべきだったんだ)



そんなことを思った凉子の頭の中に晴江のグループが紗栄子を取り囲んでいた様子が思い浮かんだ。



紗栄子は四つん這いで、犬のマネをさせられていて、紗栄子がそれを拒もうとすると、晴江たちから容赦ない蹴りが飛んでいた。



教室には晴江が紗栄子をバカにする高笑いが響いていた。



同じ歳で、同じクラスで、同じ中学生なはずなのに、晴江と紗栄子は天と地ほどに違っていた。



凉子はそんな二人を見て、紗栄子のポジションにだけは絶対になりたくないと思っていた。