『弓弦くん』
『ごめんね、やっぱり別れたくない』
『今日、会えない?』
…はぁ。
今日何回目だろ、この連絡。
間違えたかなぁ…後腐れない恋愛、してくれる子だと思ってたのに。
俺の指は迷わずブロックの文字をタップする。ついでに会話の履歴も消去。
鬱陶しいことは早めにやめる。
俺のポリシー。
「弓弦(ゆずる)」
「なーに」
後ろの席から声をかけられて、俺は画面に目を落としたまま後ろを向く。
女の子の名前が並ぶそれに俺は指を迷わせていた。
チラッと目をやると、同じくスマホの画面を見つめる八雲(やぐも)。
多分、現在進行形で付き合ってる彼女と連絡を取ってるんだろう。
「昨日別れたんだよな?次は?」
フツーの顔してそんなことをいう男。
傍から見たらクソ。
「どーしよ」
そうやって返す俺もクソ。
俺も八雲も割とそーゆーことにはルーズなタイプで。
近づいてくる女の子は拒まないし、狙った女の子はガチで落としに行くし、なのにそーゆー子ですら長続きしない。
簡単に言うと、めちゃくちゃ遊んでる。
校内でも割と噂になるくらい、女の子取っ替え引っ替え。
でもさ、でも。
そんな俺に引っかかる女の子も女の子だよね。
俺と同じくらい頭悪いよね。
顔だけで選ぶ女の子、割と多いんだなーって。
割といい方なんだよ俺。女の子に困らないくらいには。
「つか、そっちは今回長いよな。もうちょっとで1ヶ月経つじゃん」
「何してもイイ顔してくんだもん、クセになりそう」
無表情がなんとも思ってなさそうに見えるけど、こいつはこう言うやつだ。
これでもまだわりとテンション上がってる方。
「お前は変わらず短いな」
「1週間は続いた」
「お前のペースは流石にマネできね。
その上ナンパもして女引っかけてんだから節操ない」
「人のこと言えねーじゃん。八雲だってその子と付き合うまでは特定の女全然できなかったクセに」
1人で一抜けして、おもんねーの。
遊んでる方が、ずっと楽なのにさ。
「バカらし」
「結構。俺は楽しかったらなんでもイイ」
あーあ、次のターゲット見つけねーと、寂しいだけ、か。
八雲も女の子にかまけて遊んでくれねーし。
女の子ねぇ…。
入学して1ヶ月。
既に学年で1番可愛いとか言われてる女の子と付き合ってみたものの長続きはしなかった。
クールビューティーって噂の隣のクラスの子とか、頭のゆるい女教師とか、いろいろ引っかけてみたけど、毎回同じ。
いまいちピンとこなくて。
あーあ、次誰にしよ。
誰がいいんだろ。
「…ゆみくん」
フワッと、ソプラノの声が俺の耳にフェードインしてくる。柔らかい、可愛い声。
透き通った、純粋そうなそーゆー声ね。
俺とは無縁そう。
「どうしたの?何かある?」
にっこりと笑いかけた。
声の先には、セミロングの黒髪を2つに三つ編みした地味な女の子、芦名姫莉(あしなひめり)。
俺的にはとんでも無く名前負けしてるなって感じるこの子。
前髪はぱっつん、切り揃ってて、大きな黒縁メガネ、ざ、まじめちゃん。
顔はちっちゃいし、色白なんだけどね。
可愛いとはいえなさそう。そんな感じ。
背はちっちゃくて、抱きしめるのにはいい感じのサイズ…よりももっとちっちゃい。
俺的には可愛くていいと思うけどね。
172センチの俺の感覚的に145センチ。
良くも悪くも、地味。目立つところ、なし。
強いて言うなら可愛らしい声くらい。
「今日、私とゆみくん、日直なんだよね。
昨日、くじ引き当たってたでしょ?」
「あっ、そう言えば」
そんな気もする。
たまーに回ってくる、めんどくさいお仕事なやつだ。
黒板消して日誌書いて。
クラスの雑用がいつもよりちょーっと多い、メイワクなヤツ。
「それでね、私背が足りなくて黒板消せないから。お願いしていいかな?」
日誌は私がしておくから、と少し微笑む芦名ちゃん。ぷっくり唇、美味しそう。
…あー、欲求不満がたたってる。
吸い付きたい。
「うん、いーよ。日誌、よろしくね」
そんな俺の気持ちも知らずに、ありがとうって、芦名ちゃんは自分の席に戻っていった。
「何、ゆみくんって」
後ろから、不思議そうな声が聞こえる。
視線は俺の方を向いていて、スマホの画面は彼女とのメッセージ画面。
…またラブラブした内容で。
「んー?ちょっと天然みたいでさ。
変なあだ名ついちゃったよね〜」
初めて話すタイミングがあったとき、確か…入学して3日目くらいかな?
俺のノートの表紙に書いてある名前を覗き込んで、「ゆ、ゆみ、ゆみげんくん…?え、ほんとに?」と、ガチの顔して言われた。
“ゆずる”だよって教えてあげたら、「そっか」と納得はしてくれたものの、次話すときにはもう“ゆみげん”でインプットされてて。
ゆみくん、なんて可愛いあだ名つけられてしまった。可愛い。失礼な話すぎるけど。
声が可愛いから許す。
「へぇ…でも、頭いいんだろあいつ。
特待枠で入学してるらしいし」
入学してすぐにあった学力テストの、中学の復習みたいなやつね。
あれの結果が張り出されたとき、1番上にあった名前は“芦名姫莉”の4文字。
人は見た目通りだね、賢そうなナリして、賢いんだから。
ちなみに俺は下から数えた方が早かったよね、頭悪いから。
「天然なんだろうね」
芦名、姫莉…。
俺が落としたことないタイプ。
真面目そうで、頭良くて、でもちゃんと地味子ちゃん。
なんか面白そう。いーじゃん。
「きーめた。次、あの子ね」
あれから1週間。
芦名ちゃんにめちゃくちゃつきまとってみてる。
「芦名ちゃん芦名ちゃん」
「ん?何かな?」
「芦名ちゃん、ご趣味は?」
「んー…寝ること?」
休み時間、話すこともないのに無理やり話かけてみたり。
「芦名ちゃん、お昼一緒にどう?」
「うん、いーよ」
お昼お誘いしてみたり。
「芦名ちゃん、今から遊びに行かない?カフェとか」
「んー、ごめんね、今お金なくて」
デート誘ってみたり。
成果は五分五分、あんまりいいとは言えない。
いつもなら98%おっけーしてくれるのにね。
さすが、他の子とは違う。むずかしいなぁ。
お昼はおっけーだけど、デートはまだ厳しいか〜、むずかしいなぁ。
趣味寝ることは完璧にめんどくさい人に使う言い訳みたいなやつだしな〜。
これもしかして勝率50もないんじゃない?
うわ〜…厳し。
…そっちの方が燃えるもん、大丈夫。