桜。風吹く度に舞い散る花吹雪。私は今日から桜日高校に通う新一年生。…といっても別に生活が大幅に変わるわけでもない。中学の時も新生活に心を踊らせて入学したが何もなく卒業。高校もそうに決まっている。学校が変わっても私が変わるわけではないのだから。

桜日高校は行事や部活動に力を入れている。部活は軽音部みたいな少し緩めのがいいかな。吹部みたいな堅苦しいのは中学まででいい。まあ、そんなことは後でいいとして。とにかく…

「クラス表みたいんだけどなぁ…」

私はお世辞にも身長が高いとは言えない。だからクラス表の前に群がっている人で見えないのだ。早く校舎に入りたいと思う反面、あの中に入るのも億劫だ。朝から大変な思いはしたくない。ましてや、入学式の日に。人が少なくなるまで少し待とうと足を浮かせたとき。

「クラス、見ないの?」
「え?」

後ろから知らない、でも懐かしいようなトーンの声が聞こえる。なんだか泣きたくなって、でもそれはおかしいことだから戸惑う気持ちから目をそらす為に後ろを向く。桜が舞って白く光った線と共にその人の顔を一瞬だけ隠す。その一瞬は目を見張るほど綺麗だった。

身長は170程度。サラサラの黒髪に男子としては白く華奢な体型。顔もかっこいい。ああ、この人はモテるな。そう客観視してしまう私は今時の女子高生とは言えないのだろうか。

「クラス見てあげるから名前、教えてよ」
「あ、えと…夕本。夕本彼方、です」
「おっけ。ちょっと待っててね」

おまけに優しいらしい。見ず知らずの女子にクラスみてあげる、なんて普通は言わない。少なくとも、私の知り合いにはいない。

クラス表に近づいて少しだけ背伸びをしながら見るその人。なんとなく、その背中に手を伸ばしたくなった。